「イスラーム映画祭9」4/29(月)『炎のアンダルシア』上映後、「声をあげろ、歌える限り —中世アンダルスが照射する現代エジプト社会、と日本」と題して、甲南大学文学部教授の中町信孝さんによるトークを開催しました。
ユーセフ・シャヒーン監督は、預言者ヨセフをモデルにした前作『移民』で、イスラーム主義の弁護士から「預言者の冒涜にあたる」と訴えられ上映禁止となった経験から、本作の着想を得たそうです。実在した哲学者イブン・ルシュドは、ヨーロッパでも“アヴェロエス”として知られた人物ですが、ヨーロッパでは異端視されました。対して、アラブ世界におけるイブン・ルシュドは尊敬を集める存在でした。アラブの先進性、ヨーロッパの後進性を描き、観る者の先入観をひっくり返す意図があると中町さん。
また、劇中の〈セクト(ジャマーア)〉について、「聖典に解釈の余地はなく、歌い踊ることは逸脱とみなす」思想は、現代におけるイスラム原理主義に近いということ、また、「時に音楽を用いて若者に取り入り、いったん取り込むと過酷な修練で思考力を奪う」やり方は、現代の過激テロ組織と共通するという2点を指摘され、それを四半世紀前に描いていたことに改めて驚くと話されます。そんなセクトの伸長を可能にしたのは、時おり挟み込まれたロマネスク美術の彫刻のような、冷たい“傍観者たちの眼差し”であり、そんなサイレントマジョリティーへの監督の怒りは私たち観客にも向けられているのではないかと投げかけます。
そして最後に流れるムハンマド・ムニールの歌「歌える限り」の“歌声をあげることはまだできる”という歌詞を紹介されました。ムニールは、2011年の〈アラブの春〉でも有名人の大半が口をつぐむ中、デモを行う若者たちを応援するような曲を発表したそうです。そこから10年以上経ち、また独裁体制に戻っているので、良い結果を生んだわけではないけれど、若者たちが自分の考えを表明するという動きが生まれたことには意味があると話され、今の自分たちを振り返る良い機会となりました。
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