「イスラーム映画祭9」5/3(金) 『辛口ソースのハンス一丁』上映後、「ドイツのアリはいないのか?—トルコ系移民二世の恋愛と家族関係」と題して、ドイツ映画研究者/日本大学文理学部教授の渋谷哲也さんによるトークを開催しました。
戦後復興に端を発し、移民の受け入れを積極的に行ってきたドイツ。現在は人口の約3割が移民です。本作のブケット・アラクシュ監督も幼いころに両親とともにトルコから移住した移民二世。残念ながら日本でロードショー公開はされていませんが、ドラッグに溺れた息子を救出するべく奔走する母親を主人公にしたデビュー作の『Anam』(2001)や、女子サッカーチームで活躍する女性が乳がんに罹患し、一度は絶望するものの大切な人たちによって人生を取り戻していく『オフサイド』(2005)など、様々なシチュエーションで生きる移民女性たちの強さを描いてきました。
『辛口ソースのハンス一丁』は、トルコ系ドイツ人ジャーナリストのハティジェ・アキュンの自伝的エッセイを原作としています。「二つの世界に生きる」という書籍の副題に、ドイツとトルコそれぞれの世界と価値観を行き来する移民2世の葛藤が表れています。
また、「ドイツ映画におけるトルコ系移民女性の典型的描き方」として、時代ごとにさまざまな作品を紹介されました。下記にまとめておきます。
『シリンの結婚』1976年/ヘルマ・ザンダース・ブラームス監督
『ヤスミン』1988/ハルク・ボーム監督
『おじいちゃんの里帰り』2011/ヤセミン・サムデレリ監督
『ただの女性』2019/シェリー・ホルマン監督
『ありふれた教室』2023/イルケル・チャタク監督
ドイツでドラマを描くのに、移民は普通にいるということが当たり前の前提で、それが社会の多様性になっています。だからと言って「ドイツもトルコも関係ない」としてしまうのはちょっと違う」と渋谷さん。ドイツ社会でも完全な統合はないと感じる移民の思いや、組織やカーストから外れた人々への繊細な目線が大事だと話されました。