『フジヤマコットントン』公開初日の上映後、青柳拓監督の舞台挨拶を開催しました。
コロナ禍で公開したウーバーイーツで稼ぐ日々を描いたセルフドキュメンタリー『東京自転車節』では舞台挨拶が叶わず、今回初来館を果たした青柳監督。『東京自転車節』の公開後真っ先に企画が思い浮かんだという本作は、監督の母の職場で、自らも幼い頃から遊びに行き、面倒を見てもらっていたというみらいファームとそこに通う人々の魅力を知っていたことや、ファームのみなさんにも「青柳さんなら撮ってもらってもいい」と好意的に見てもらえたことが大きかったといいます。また2016年、津久井やまゆり園で起きた相模原障害者施設殺傷事件で、植松死刑囚が語ったことへのアンサーになる映画をという想いもあったと話されました。
ただ、実際に撮影のためみらいファームに足を運ぶと、そんな政治的なメッセージは吹っ飛び、「ちゃんと目の前のことをただ撮らせていただくだけで良い気がしました」。撮影では、青柳監督が大好きだという『隣る人』(2011年 刀川和也監督)を参考にし、監督を含め、3人で撮影する体制をとり、撮影者それぞれが対象者である人たちと関わり、主体的に撮りたいという意思をもって撮ることを大切にしたそうです。利用者の中にはさまざまな作業をしている人だけでなく、寝ている人もいますが、「ミライファームではそこにいたい、いるということをとても大事にしています。ゆくゆくは何かできるようになるといいけれど、寝ているということはその人がしたい状況なので、受け入れています。世知辛い状況ですが、ゆっくり来て見ていただける映画になったのではないでしょうか」と語りかけました。ひとりひとりがまさに表現者であり、その眼差しや動き、日常の会話や紡がれる関係性を丁寧に捉えたドキュメンタリー。そこに集う人たちの営みを包み込むような「みどり」の音楽に導かれ、映画に身を委ねてみませんか。