ピアノの生演奏付きでサイレント映画を楽しむ「SILENT FILM LIVE」、2022年春の企画は“女性映画”を4作品3プログラムで特集しました。メインとしたのは、デンマークの巨匠カール・テオドア・ドライヤー監督の『あるじ』。ドライヤー監督のよく知られる重厚で宗教的な作風とはまったく異なり、軽妙なユーモアを感じる室内劇で「こんな作品も作っていたのか」と驚きます。女性の家事労働の価値を認め敬うべしという力強いメッセージが現代の私たちにも響く素敵な作品です。最初は実際のアパートでの撮影が予定されていたのが、やはり手狭でうまくカメラを設置できず、なんとアパートごとセットとして作り撮影されたそうです。のぞき穴から見ているような映像も印象的で、いち家庭の個人的事情を覗き見ているような気持ちになります。鳥飼さんの演奏は、夫・ヴィクトルの暴君のような振る舞いや妻・イダの献身を細やかに表現し、夫を“しつけ直す”元乳母のマッスとのやり取りはユーモラスに観る者の感情を導いていきます。「コメディとは言え、大笑いできるドタバタではない。あくまでホームドラマとしての起伏を見せていくよう意識した」と話されました。世のすべての男女に観てほしい『あるじ』、傑作でした！