「イスラーム映画祭9」4/30(火) 『メークアップ・アーティスト』上映後、「女性たちの反ヒジャーブ運動と、イランを知るための映画・文学」と題して、日本学術振興会特別研究員PD/東京大学の村山木乃実さんによるトークを開催しました。
大学時代にペルシア語の授業を受けたことがきっかけで、イランに惹かれたという村山さん。映画でも夫が結婚前にメークアップ・アーティスト養成校通いを承諾していたにも関わらず、いざ結婚、出産後に希望すると「しきたりに合わない」と義母も含め猛反対された主人公ミーナが、息子の面倒を見る二番目の妻を自分で探しに出かけますが、そんなイラン女性の結婚観について「イランでは、家同士の結婚=契約という意味合いが強いため、結婚前から儀式も多く、女性は結婚することで扶養を受ける権利を得るかわりに外で働く必要はないとみなされてしまう。一夫多妻制を残す場所も地方ではあるが、実際は手続きが大変」と解説されました。
多民族国家イランは、難民受け入れ大国でもありますが、ミーナはバフティーヤーリー族という少数民族で、主に羊を飼い、ギャッベ絨毯を作って生計を立てているそうです。最近バフティーヤーリー族にルーツを持つラッパー、トゥーマジ・サレヒさんが反ヒジャーブ運動を支援したとして死刑判決を受けたことに大変ショックを受けているという村山さん。2022年にクルド系イラン人のジーナ・マフサ・アミニさんがヒジャーブの着用を巡って道徳警察に連行され、警察による暴行で死亡した事件とその後の動きについて解説した後、ヒジャーブ義務化の歴史や反ヒジャーブ=反イスラームではないことに触れました。
トークの後半は、イランを知るための映画を6本ご紹介!
・現実とファンタジーの世界が交錯し、イランの料理や名優ゴルシフテ・ファラーハーニーが主演も見どころの『チキンとプラム 〜あるバイオリン弾き、最後の夢』(2011)
・さまざまなジャンルのバンドからイラン文化に触れられる『ペルシャ猫を誰も知らない』(2009)
・介護、宗教、格差、女性からの離婚の難しさが織り込まれた社会派ドラマ『別離』(2011)
・名匠ジャファル・パナヒ長男によるロードムービー『君は行く先を知らない』(2021)
・アジアンドキュメンタリーズで配信、イラン文化を知るために格好のドキュメンタリー『ザ・シンフォニー・オブ・イラン』(2018)
・ソ連侵攻前後を少年たちの視点で描く傑作中の傑作『君のためなら千回でも』(2007)
そして最後は村山さんの新刊を含め、イランをするための文学を4冊ご紹介いただきました。
・古典文学の入り口に最適「ペルシアの四つの物語」、チャーリー・パーカーも読んでいた!「オマルハイヤーム ルバイヤート」!
・イラン系アメリカ人がイランのマイノリティーを描き、10代の悩み、性的指向、多重アイデンティティ、うつなどにも取り組んだ「ダリウスは今日も生きづらい」
・イランのことを知りたい人におすすめの一冊「ペルシア文化が彩る魅惑の国 イラン Travel & Culture Guide」
・イランの革命前後の社会の流れや古典文学、神秘主義文学がどのぐらい重要であるかがわかる「孤独と神秘」(村山さんの新刊)
映画や文学を通して、イランに興味を持ち、さらに深く知るきっかけをたくさんご紹介いただきました。元町映画館オンラインショップで販売中の「イスラーム映画祭9」公式カタログでも「国家が女になる日を決める」と題した村山さんのコラムが掲載されていますので、ぜひチェックしてみてください!