「イスラーム映画祭8」最終日の5/5 (金) 『エグザイル 愛より強い旅』上映後、「ヨーロッパを知るための”移民映画”大講義」と題して、ドイツ映画研究者/日本大学文理学部教授の渋谷哲也さんによるトークを開催しました。
ヨーロッパ圏の歴史を振り返ると、まずはヨーロッパ内(スペイン、イタリアなど南部の貧しい地域)からの移動にはじまり、植民地化によるヨーロッパ外(イスラーム圏)からの移動が加わったため、移民の映画を読み解くにあたり、その出自を辿ることの難しさに触れた渋谷さん。トニー・ガトリフ監督の父はアルジェリア生まれのベルベル人(北アフリカで移動する民族)、母はスペイン・アンダルシア地方のロマ人で、ガトリフ監督自身は1962年のアルジェリア独立を機に家族でフランスへ帰還した典型的な移民世代であると解説。ルーツを求めてアルジェリアに向かうロードムービー『エグザイル』の主人公、ザノ(フランス入植民者の孫)とナイーマ(アルジェリアルーツのフランス人)には監督のルーツやどこにいても「エグザイル(流浪者)」であるという思いが重ねられています。
「移民の多様な流れを示そうとしていることは明らか」という渋谷さんは、道徳的な縛りがなく自由に旅をするところにも着目。故郷なのか異国なのかという二項対立を、アート的に変えて行くのが面白いと、作曲もするガトリフ監督のアーティストの視点を交えながら解説。「移民、難民はかわいそう、救わなければいけない人々という目線を外して、移動する人々をみせる」とても高度な移民映画であることを力説されました。
後半は2015年以降に作られたヨーロッパの移民・難民関連作品をその着眼点と共にご紹介いただきました。
●『その手に触れるまで』(2019 監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ)
●『FLEE フリー』(2021 監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン)
●『レ・ミゼラブル』(2019 監督:ラジ・リ)
●『カセットテープ・ダイアリーズ』(2019 監督:グリンダ・チャーダ)
●『ベルリン・アレクサンダープラッツ』(2020 監督:ブルハン・クルバニ)
●『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』(2019 監督:ファティ・アキン)
最後に「映画は旅、ロードムービーが本質」と改めて『エグザイル』を振り返った渋谷さん。本作のクライマックス、土着の民間信仰と結びついて広がったスーフィズムのシーンで、アルジェリアに入ってから所在なさを抱え続けいたナイーマだけでなく、最後にザノまで魂の浄化の踊りに加わったことにも触れ「この映画が提示する越境することのヒントをもらってほしい」と締めくくりました。音楽の豊かさにまず注目が集まるガトリフ作品ですが、細かく読み解いていくと、旅の途中で出会う人々や文化を通して、多様な民族や移民のひとりひとりを丹念に映し出していることを改めて実感するトークだったのではないでしょうか。