女性の生き方を考えるブックフェア ”WOMEN’S READING MARCH”の開催中の神戸の書店〈1003〉と映画や本にまつわるものづくりをする〈NINE STORIES〉とタイアップし、J・F・ケネディの妻ジャクリーヌの叔母である〈ビッグ・イディ〉とその娘〈リトル・イディ〉の廃墟のような豪邸でのふたりっきり生活に迫ったドキュメンタリー映画『グレイ・ガーデンズ』の公開初日に、著書「真似のできない女たち」でイディ母娘を取り上げたコラムニストの山崎まどかさんをお招きしてのトークショーを開催しました。
〈NINE STORIES〉かとうさおりさんが聞き手となり、まずは山崎さんがイディ母娘の生い立ちを、写真を交えながら解説。同じワンピースのリメイク前後がわかる2枚の写真から、リトルイディの独特なファッションセンスと、お金がない中工夫して暮らしていた様子がうかがえます。アンディ・ウォーホールも彼女を支援し、ファッションデザイナーのアイコンにもなっていたことから、「単に奇抜なのではなく、美意識がある」と語られました。
お金がなく、長年社会と没交渉の生活を送っていたイディ母娘は、変わってはいるけれど上流階級気質に合わなかったと分析。元々パフォーマー気質のあったふたりは、メイズルス兄弟から密着ドキュメンタリーの打診があったとき大喜びしたそうです。現在当館で上映中のメイズルス兄弟による聖書セールスマンに密着した『セールスマン』は劇映画のようにまとまっており、見やすいと評した山崎さん。本作はメイズルス兄弟が表現欲の強いイディ母娘に主導権を握られており、メイズルス兄弟作品群の中でも異質と言えます。エキセントリックな自分を表現し、それを楽しんでいる母娘の姿が魅力とも言える本作は、アメリカでは「日本でいう『ゆきゆきて、神軍』(原一男監督)ぐらい有名」で、舞台化された例もご紹介いただきました。
2006年に、ニューヨークマガジンに特集が組まれていたのを読んだのが、イディ母娘を知ったきっかけだったという山崎さん。若い頃のリトルイディの見開き写真から「この人に呼ばれている、もっと知りたい」と感じ、調べ続けた結果、雑誌の新連載依頼時にグレイ・ガーデンズのことを書きたい思いで企画を提案したと書籍化のきっかけを語られました。
山崎さんは「(リトルイディにとって)一生に一度の主演作が現代まで残っているのは凄いこと」と、ずっと女優として活躍することを望んだ彼女が本作でスターの座を掴み、ビッグイディ亡き後は穏やかな人生を送ったことにも触れました。
映画が日本でこのように上映されていることに感無量としながら、女性の観客から「これはわたしたちの物語」と言われたことを紹介し、「今は、急に自分たちの足元が抜け落ちて、誰もがズドンと落ちていくかもしれない。その切実さをみんな感じているのではないか」と母娘の共依存関係だけでなく、より普遍的な問題が内在していることを語られました。
メイズルス兄弟の『グレイ・ガーデンズ』、『セールスマン』は、3月31日まで上映中。この機会に、ぜひお楽しみください!