
8月23日、中国の若手監督チェン・シャオユーの長編デビュー作『舟に乗って逝く』の上映に合わせ、神戸大学大学院人文学研究科教授の濱田麻矢さんをお招きし、トークイベントを開催しました。
中国文学がご専門の濱田さんの解説により、本作が描く家族と故郷の物語がより鮮明に浮かび上がるトークとなりました。
映画の舞台は、監督自身の故郷であり、“中国のベネチア”とも称される江南地域の徳清です。かつて運河が流れ、どの家にも舟があったこの町を舞台に、重い病を患った母親と、上海でアメリカ人の夫・娘と暮らす長女、旅のガイドとして生計を立てる独身の弟を中心に物語が描かれます。本作は実際の監督の半生や祖母との関係が色濃く投影された作品。中国では母方の祖母と父方の祖母では呼び方から違い、母方の祖母が孫の面倒を見るのが一般的で一番身近な存在だそうで、おばあちゃんのセリフの8割は監督の実の祖母の言葉がもとになっているそうです。映画の中のおばあちゃんの家も、実在する監督の祖母の家で撮影されたとのこと!
おばあちゃん世代、親世代、孫世代と登場人物が多い本作。家系図を作ってわかりやすくご説明いただき、登場人物一人ひとりの行動の社会的背景などを丁寧に紐解いていただきました。
例えば祖母は中華人民共和国が建国された1949年生まれで、息子に結婚を勧めるのは中国では男子が姓を継ぐため。また、だからこそ長女と元夫との間に生まれたタオ(俳優を目指すこのタオが監督の分身)は、長女の家庭では一人だけ浮いた存在になってしまう、というお話がありました。祖母自身も複雑な事情を抱えた設定で、タオに一番親和性を感じていたのでは、というご指摘も。家族と離れて自分の夢を追うタオに祖母がいう「おばあちゃんの家も父母の家もお前の家ではない」という言葉は、タオが新しい自分の居場所で故郷を再発見するきっかけとなる重要な示唆だと解説されました。
その他、上昇志向の強い長女が、母の病気をきっかけに生活をダウンサイズすることを受け入れていくお話や、長女の娘をはじめ、やはり女性にケアを担う役割が求められるジェンダー観、一方で「強い父親像」の不在も指摘されました。アメリカ人の夫は長女の尻にしかれており、弟は家族自体をもっておらず、中国の家族の姿の変容も感じさせます。
長女の娘スーザンには監督の8歳上の姉が投影されているそうで、実際に監督のために大学を辞めて働かれていたそうです。中国では男子を望むため、長女と年の離れた弟というパターンがよくある、というお話もありました。
また、弟が、幼くして死んだ兄を意識し自身の出生への不安を口にする背景として、当時の一人っ子政策がある、という解説も。
最後に「離郷、帰郷、懐郷」というテーマでトークは締めくくられました。
質疑応答では最近の中国映画の傾向について質問が上がりましたが、第五世代の監督のような大きな物語ではなく、もっと身近な個人の物語に焦点を当てた作品が多いのでは、とのこと。本作も中国では大変ヒットしているそうです。
当館での上映は8月29日まで。「舟」というモチーフにより、電車や車とは違った時間が流れる本作。この機会にぜひご覧ください。














