
映画監督の池谷薫さんが、自作を題材にドキュメンタリー映画の“裏側”を徹底解説する「池谷薫ドキュメンタリー塾」。第4回は「寄り添うように撮り 骨太のストーリーを編む」と題し、岩手県陸前高田市で農林業を営む佐藤直志さんが、東日本大震災で流された自宅を、その地で建て直す夢に向けて孤軍奮闘する姿をみつめた『先祖になる』(2011)を取り上げました。直志さんは残念ながら2023年10月9日に89歳で亡くなりましたが、池谷さんは「これからも映画の中で活躍し続けるし、たくさんの人に見てもらいたい」と最晩年のエピソードをご紹介。自分で作ったお米からできた日本酒を抱えた直志さんの笑顔が、心に焼き付きます。
『蟻の兵隊』の次にチベットで撮るつもりが白紙になり、東日本大震災後に陸前高田へ向かった池谷さんは、日本中自粛の嵐の中、地域の人に花見を呼びかけた直志さんに出会います。仲間たちの前で「今年も桜は同じように咲く」と土地に根ざしている生活者の言葉で語りかけた直志さんに心を奪われたそうです。さらに直志さんは木こり名人だったそうで、自然と共生する映画になるし、池谷さんの頭の中のシナリオを超えた直志さんに寄り添うように撮影し、「佐藤直志で見せきる」映画にできると実感したといいます。津波で息子を亡くした直志さんと、病気で息子を亡くした福居正治カメラマンの関係性にも言及しながら、人間がなくしたものを一つ一つ拾い集めていくような撮影エピソードをお話いただきました。
構成面では、直志さんの浸水地域に家を建て直す決意表明と、けんか祭りで有名なこの地域の若者たちが「町内会の解散なんて言わないでけれ!」と絶叫するところのつながりを説明。そこには、「先祖になる」という言葉を語った直志さん自身の故郷再生にかける壮絶な思いがあり、若者たちも祭りに必要な長老たちに働きかけてもらうよう直志さんのもとを訪れ、苦難な中での交流や継承が生まれていったことを丁寧に積み重ねています。津波が土地の風俗、伝統まで流そうとしたことに対し、直志さんをはじめとする地域の人たちの心の拠り所を取り戻す姿が大きな輪となって骨太なストーリーになったことを解説いただきました。
また当時別居中だった妻のテル子さんが「今が一番羽ばたいている」と活き活きと語るシーンでは、「テル子さんのおかげで、直志さんがスーパーマンにならずに済んでいる」と映画における役割にも触れられました。後半孤独な姿をみせる直志さんについて、彼を親分と慕う本作のバイプレイヤー、菅野剛さんが語った「人のことを考えて孤立してしまうのはどうも…」という一言で、観客は復興の闇を見つめることになります。追い詰められた直志さんから発せられたある一言の後に、観客が咀嚼するための“余白”のための無音シーンを入れるなど音についてのお話も。被災地には音が豊かにあるため、本作はいわゆる劇伴は作らず、カモメの鳴き声、鳥の音色、重機の音、自警団の見回りの鐘、そして音楽のような直志さんのチェーンソーの音を丹念につけていったといいます。
最後に、チベットで撮影した利他の心を映し出す『ルンタ』を見ながら宮沢賢治を思ったとの観客の声から、菅野さんが直志さんのことを「宮沢賢治のように」と語っていたことにつながり、この映画は祈りの映画になったと結びました。
最終回となる第5回では、その『ルンタ』を題材に開催します。人間の尊厳を求めて撮り続けてきた池谷さんが「なんとしても作らなければならなかった映画」と称した作品です。
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